バーベキュー大会で、夜空に響くイッキコール
あらすじ
地獄の飲みサー・パート2。ギクシャクしてしまった2人。先輩たちのイッキコールが香奈を襲う!(連載中)

 

パート1

 

始まったバーベキュー大会

 夕陽が湖面を赤く染め始めた頃、

 

「かんぱ〜い!!」

 

 里中先輩が缶ビールを高くかかげて、みんなもそれにならって、待望のバーベキュー大会が始まった。

 

 新入生だけでなく、未成年者は何人かいるのだが誰もそんなことは気にしなかった。驚くべきことにウーロン茶やオレンジジュースを手にしている人も皆無だ。缶ビールが8割。その他の人はサワーやハイボールなど。

 

 しかし圭介は感動さえしていた。これが憧れの大学生活なのだ。テニスサークルなんて名ばかりの遊びに命をかける集団。酒を飲めない、あるいは飲まない人はこのサークルに籍を置いたりしない。きっとそういうことなのだ。

 

 肉が焼ける芳ばしい匂いと音、そして野外の解放感と高揚感、新しい仲間、初めてあったばかりの年上女性たち、歓声、笑顔、そんなものの全部にあおられて、口にしたことがある程度のビールをグイグイ喉に流し込んだ。

 

 ギクシャクしてしまった香奈との距離感が、その勢いに拍車をかけた。

 

 香奈はそこにいる。そこ、といっても圭介の隣のバーベキュー卓だ。総勢30人弱の大所帯なのだから、屋根付きの設備を3卓分借りている。

 

 自己紹介以降、香奈とは口をきいていない。何となくタイミングを逃し続けたままここまできてしまった。

 

 香奈はサワーをチビチビ飲み、歓喜の輪の中で笑顔を浮かべてはいるが、場になじみきれてはいない。

 

 香奈のことをずっと見てきた。だからそれが分かる。酒だって正真正銘初めてかもしれない。心細そうな彼女の隣に自分がいてあげたい。いや、彼氏なんだからいてあげるべきだ。それにさっき里中先輩とどこへ行ったのか、それをどうしても聞きたかった。

 

 圭介が香奈に歩み寄ろうと一歩を踏み出した時だった。

 

「少年、飲んでる?」

 

 肩を叩かれた。振り返ると缶ビール片手に頬をほんのり染めている由梨さんがいた。

 

「これ、圭介くんが切ったタマネギ。厚すぎて火がちゃんと通らないから、からいんだけど?」

「す、すみません!」

 

 由梨さんのパーカーは胸元までジッパーが降りている。くっきりした鎖骨もほんのり染まっていた。それに……。

 

 下着の上に直接パーカーをはおっているようで、ブラのラインが透けて見えた。

 

 ーー今夜、デキるかもしれねえぞ。

 

 里中先輩の言葉がよみがえる。由梨さんの胸は明らかに香奈より大きい。パーカーに覆われているのにそこだけパツンパツンに布が張っている。ショートパンツからスラリと伸びた太ももまで赤く染まっていて、圭介はめまいを覚えた。

 

 それは酔いのせいだけじゃない。アルコールが入ると欲情が加速する経験を圭介は初めて味わったのだった。

 

 デキるデキるデキる。由梨さんとデキる。妄想がぐるぐると圭介の頭の中で回る。パーカーの下は何色の下着だろう。ブラを外した胸はどのくらいの大きさだろう。どんな触り心地だろう。乳首を口に含むと由梨さんはどんな声で鳴くのだろう。

 

 この場で押し倒してしまいそうなほど血がたぎった。

 

「ん? どした?」

 

 由梨さんのクセなのだろう。首をかたむける仕草。あまりに愛らしく、圭介の高ぶりをあおるばかりだ。

 

「由梨さんっ!」

 

 危うく抱きつきそうになった瞬間、圭介の耳にそのかけ声が飛び込んできた。

 

『な~んで持ってんの? な~んで持ってんの? 飲み足りないから持ってんの! 飲んで飲んで飲んで、飲んで!』

 

 声に振り返る。香奈の周囲に数人の男女が集まっていた。歓声、手拍子、香奈の飲酒をうながすイッキコールだった。

 

「お、始まったなー」

 

 由梨さんの声は軽い。反して圭介の胸は、ぎゅっと締めつけられる。

 

 だって香奈が。

 飲み慣れない酒を手に戸惑っている。

 急に多くの人に囲まれ驚いている。

 違う、違うんだ。

 香奈はそんな子じゃないんだ。

 おしとやかで優しくて健気で頑張り屋で愛犬を可愛がっていて親思いで将来は公務員になりたい普通の女の子なんだ。

 

 酒をイッキに飲んで喜ぶような子じゃないんだ。

 

 香奈と目が合った。助けを求めている。しかし反射的に歩き出した圭介の腕を由梨さんがつかんだ。

 

「あの輪に入りたいの?」

「いえ、そんなんじゃなくて」

「いいじゃん。私と一緒に飲もうよ」

 

 香奈!

 

 叫ぼうとしたら香奈はサワーをイッキに飲み始めた。圭介に当てつけるようなタイミングだった。

 

『飲ーんで飲んで飲んで、飲ーんで飲んで飲んで、飲んでっ!』

 

 どこまでも軽薄なコールが夜空に響く。

 

 香奈は――。

 

 空気を読む子なんだ。

 

『ちょい残しはもう一杯!』

 

 結局圭介は、香奈が2杯連続でイッキさせられるのを止めることができなかった。(つづく)