童貞の圭介だから、里中先輩の生々しい言葉はダイレクトに股間を直撃した。香奈という恋人がありながら、思わずサークルの女性陣を見渡してしまう。
見定める時間はほんの一瞬でしかなかったが、先輩たちの中に好みのタイプを見つけた。ミニのテニスウェアから伸びるスラリと長い足。その白い太ももが目に焼き付いた。細い腰なのに、バインとふくれた重そうなおっぱいが目に飛び込んできた。
首から上もまとまっている。シャープなアゴのラインと薄い唇。でも冷たい感じが全然しないのは、柔らかそうな頬のせいだろうか。クリクリ優しそうな瞳と視線がぶつかると、彼女は少し不思議そうに首をかしげて微笑んだ。清涼感あふれるポニーテールがふわりと揺れた。
「そんなんじゃないっす!」
圭介は慌てて抗議の声を上げたが、里中先輩は男なんだから気にするな、とでも言うように圭介の肩をポンポンと叩いた。
ーーそんなんじゃない。そんなんじゃないんだ。だって俺には香奈が……
ふいに湧いたヨコシマな気持ち。その罪悪感を振りはらうように香奈の方を見ると、香奈は隣にいる同じ新入生の男と話をしていた。こぼれる彼女の笑顔がいつもより輝いているような気がして、圭介は胸がザワつくのを抑えられなかった。
すれ違い
「圭介くんだっけ? 自己紹介のとき目が合ったね」
ほとんど誰もまともにラリーが続かないテニス大会を終え、新入生の6人でバーベキューの下ごしらえ。圭介がタマネギを切っていると背後から急に話しかけられた。
「うお、びっくりした!」
振り返る。ポニーテールの先輩が顔の前でごめん、と手を合わせていた。先輩はテニスウェアから、淡いブルーの短パンと薄手の白いパーカーというラフな格好に着替えていた。
「調理中にアレだね、危ないね。ごめん。さっき目が合ったねって、それだけなんだけどさ」
圭介の向かいでは香奈がニンジンとピーマンを切っていた。本来の圭介なら、香奈に気をつかって他の女性とはなるべく距離を取るようにする。だが、さっき他の男と楽しげにしていた香奈の笑顔が残像として残っていた。
「すみません、ついみとれちゃって」
だから、反射的にそんなふうに返していた。
「ん、あれ?」先輩が可愛く首をかたむける。
「な、なんすか」
「そんなこと言う人には見えなかったけどな」
「言いますよ、言います。だってもう大学生だし。ガキじゃないし」
先輩は目をパチパチさせて、それからにっこり微笑んだ。
「私、香坂ゆり。由緒ある梨と書いて由梨。由緒ある梨ってなんだよって今、思った?」
「思ってないっす」
「じゃあどう思った?」
「き、キレイな名前だなと…」
「今年の新入生はデキるね」
「俺は下田圭介っす!」
「うん。さっき聞いた。バーベキュー楽しみだね」
キュートなエクボを残し、由梨さんは足取り軽くその場を去っていった。
背中に香奈の視線を感じて振り返るのが恐かったが、元はと言えば悪いのは香奈の方だ。少しはこっちの気持ちも考えろ。思い知れ。いや、泣かせちゃったらさすがにかわいそうだ。それに小さな男だと思われたくない。
とりとめない思考のまま振り返る。香奈の姿はそこになかった。慌てて周囲を見渡した。見つけた。ちょっと先にある香奈の後ろ姿。その細い背中。少しづつ遠くなる。隣に男がいる。里中先輩だった。
圭介は並んで歩く2人の姿が見えなくなるまで、その場を動けなかった。