映画のカップルシートは個室状態。ラブシーンで興奮しちゃった私たち
あらすじ
休日に映画を観にきたら、通勤でいつも同じ車両に乗っている男の人がいた。チケットが余っているからとカップルシートに誘われて、ふたりだけの空間に。映画の中でラブシーンが流れて始めて、何だか怪しい雰囲気に……(ページ数2)

 

カップルシートに誘われて

 映画館のチケット売り場で一人の男性に目がとまった。

 Tシャツにシャツを重ねたカジュアルだけど、清潔感がある服装。

 そういう私も、Tシャツにショートパンツというラフな格好だけれど。

 

 彼のすっとした立ち姿が自然体だった。三十代、もしかしたら四十代かも。男の人の年齢はよくわからないけれど、落ち着いた大人の雰囲気だ。

 見覚えがある……、気がする。でも誰だろう? 

 会釈をしてすれ違うと、男性も「ああ」と笑顔を向けてくれた。

 

 チケットを買う列に並んでしばらくしたら「すみません」と声をかけられた。振り返るとさっきの男性だった。

「あの、通勤電車でいつもお会いしますよね」

 言われてピンときた。

 いつも同じ時間、同じ車両に乗り合わせる人だ。けれどいつもはカチッとしたスーツ姿なので、すぐには思い出せなかったのだ。

 

「断ってくれても全然大丈夫なんですが、実はチケットが1枚余っていまして」

 彼は遠慮がちな笑顔を浮かべた。

 買ってくれっていうことかな? 少し安く売ってくれるなら、お得かも。

「だけどあの……、カップルシートの券なんですよ。一人で観てもいいと思っていたんだけど……。観たい映画が同じだったら、よかったら……。チケット代はいらないですし」

 

 非売品、と印刷してあるチケットを私に見せながら、やっぱり言うんじゃなかったかな、という迷いが語尾ににじんだ。なんとなく励ましたいような気持ちになって、

「わ! カップレシートって、普通のよりも高いんですよね。私、利用したことなくて。どんな感じなんですか?」と明るく問い返した。

「え、っと。ベンチシートというか、座席の間にひじ掛けがないんですよ。それでちょっとゆったりしていて、シート自体も高級な感じで」

「飛行機のビジネスクラスみたいな?」

「そうですね。そんな感じです」

「あの、ポップコーンとかジュースを置く場所はとかは……?」

 ちょっと恥ずかしいけど、映画を観るなら外せないポイントだから、聞いておかなくちゃ。

 

 彼はクスリと笑いをこぼし、「もちろん置けますよ。では買いに行きましょうか」と私のヒジを優しくつかんでチケットの列から引っぱりだした。エスコートするように。

「一人でカップルシートに座るの、少し恥ずかしいと思っていたので、助けてくれたお礼です」

 そして、ポップコーンとジュースも買ってくれた。

 

まるで個室のカップルシート

 カップルシートは思っていたよりもゴージャスだった。

 二人の世界に入れるように、という配慮なのか、周りを背もたれがぐるりと囲っている。まるで個室だ。

 それで少々焦ったけれど、普通に座る分には肩も触れなさそう。

 選んだ映画もアクション物なので一人で観るより楽しそうだ。

 

 並んで座ってしばらくすると映画が始まった。オープニングで爆音と共に主演俳優が敵に捕まってしまう。思ったよりも過激なシーンに息をのみ、驚いて体がはね、彼にぶつかってしまった。

「すみませ……」

 反射的に謝ろうとすると、ぽんぽん、と優しく腕を叩かれた。

 気にしないで、と優しい目が伝えてくれる。

 彼がそっと手を引こうとしたのが寂しい気がして、彼の腕に触れてしまうと、彼は引こうとした腕を止め、手を握ってくれた。

 

 忘れていたけどアクション映画にはラブシーンがつきものだった。

 やがて始まった外国の映画のそれは濃厚で、繋いだ手を意識してしまう。

 彼も同じ思いだったのか、そっと手が離れていった。急にスウスウする手を持て余していると、彼の手が、ショートパンツから伸びる私のむき出しのヒザに触れてきた。カリ、カリ、と指でヒザをひっかく。

 なんだろう?

 そう思ったのもつかの間、じわじわと躰の中に熱が生まれる。なに、これ? 体の力が抜け、シートにもたれかかる私の体を彼が自分の方へ引き寄せる。

 

 しっかりした男の人の体……。さっき会ったばかりの人なのに。

 ダメ、こんなの、ダメだ……。

 

 理性のささやきはまるで逆効果。

 だって彼も慣れてる感じじゃない。戸惑っているのに、やめられない、そんな感じがする。

 彼は私の背中から腕を回し、胸の下あたりに手を添えている。ギリギリで胸に触れるのを我慢しているみたいに。

 それとも胸の下の骨が、こんなにも焦れた気持ちになること知ってるのかな。時折力を入れて押してくる。

 思わず彼の胸に自分の胸を押し当て、こすりつけてしまった。おねだりするみたいに。

 

 そんなことしたことない。

 どうしよう……。

 嫌われちゃうかも。そう思うと、急に不安になる。それにもしかしたら……。

 彼の左手の薬指をさぐり、指輪がない事にほっとする。

「結婚していませんし、彼女もいません」

 彼の声が私の耳の中に吹き込まれる。