トキメク筋肉

 ちょっとお姉さんぶっただけなのに、気がつけばグラスは3杯、4杯と空になっていた。

 午後3時。外はまだ明るい。並んで座るふたりの距離は近い。時々、肩と肩が触れ合ったりするほどに。

 真菜は少し酔っている。

 頬が、ほわっと火照るのを感じていた。

 

 火照りの原因がお酒のせいだけなのか、隣に若い男の子がいるからなのか、あるいはその両方なのか、よく分からなかった。

 

「ねえ、淳君」さっき触った固い筋肉の感触が真菜の手の平に残っていた。「何かスポーツやってるんだっけ?」

「高校の時はサッカーやってました」

「おおーサッカー! うちの子も近所のクラブに入ってるよ」

「高校最後の大会でケガしちゃって。今は何も」

「でもさ、筋肉すごいね。お腹、カチカチだった」

 

「ああ」と淳君は微笑んだ。「筋トレは今でも欠かさないんです。クセみたいなもんで。鍛えてないと不安なんすよね」

 触っていい? と真菜は淳君の顔を下から覗き込んだ。そして、返事をもらう前に彼の腹筋に手を当てていた。

 

 うっとりするような感触。「鉄板みたい」とつぶやき、撫でた。5本の指に力を入れたり、弱めたり。

「ちょ、くすぐったいっす」

 淳君は身をよじった。かまわず撫で続けたていたら、淳君の視線が胸元に注がれるのを感じた。

 真菜はVネックの白いニットを着ていた。前屈みになっていたため、胸元がぱっくり開いていたのだ。

 旦那とお揃いで買ったニット。羞恥心と罪悪感が湧き上がってきたけど、それよりも好奇心の方が勝った。いつも腰が低く、謙虚な淳君がどんな変化を見せるのか確かめたくなった。

 

真菜は胸元を手で押さえて、淳君をにらんだ。

「どこ見てたの?」

「岩本さん、まずいっすよ」

「何がまずいの?」

「近いっす。変な気持ちになったらどうすんですか」

「変な気持ちって何?」

「俺も男なんで」

「男だから何よ」

「勘弁してくださいよ。言わせないでください!」

 真菜がイタズラっぽく微笑むと、淳君は勘弁してくださいよ、ともう1度言って、また身をよじった。その股間は少しふくらんでいた。

 

 色気なんて最近全く意識していない私にも、こんなに若くてかわいい顔の男の子を熱くさせることができるんだ、という充足感が真菜に芽生え始めていた。

 

 ここはカラオケボックスで、各部屋にはカメラも設置されている。そんなことは淳君にも分かっているはずだ。だから、淳君が狼になり、真菜に踏み入ってきたとしても胸を揉まれたり、キスされるくらいがせいぜいだろう。

 そのくらいなら、日常のちょっとした火遊びとして許されるのではないか。真菜がそんな風に考えたのは、お酒のせいでもあった。

 

「肌きれいだよね。女の子みたい」

 身を起こし、淳君の頬に手の平で触れた。そしてさすった。指先が彼の唇に触れた。淳君は避けなかった。

 そのまま親指の先で唇をなぞった。淳君は口を半開きにした。親指は彼の前歯に触れた。彼は舌を少しだけ出し、真菜の親指の先を軽く舐めた。

 淳君も同じように、真菜の唇を親指で触れた。真菜も舌先で舐めた。淳君がフーと細い息を吐いた。

 

「逃げるなら、今のうちっすよ?」

「逃げないとどうなるの?」

「こうなります」

 淳君は真菜の頬を両手ではさみ、顔を近づけてきた。

「きゃ~」

 かわいく悲鳴を上げた次の瞬間、唇が重なった。

 

「んっ…」

 声が出た。淳君はさらに強く唇を押しつけてきた。

 丹念なキス。

 

 上唇、下唇の順に優しく吸われ、舐められ、頭がボーッとしてきた頃、締まりのなくなった口内に淳君の舌が這い進んできた。

 舌と舌がからまる。にちゃ、と粘っこい音が漏れる。歯の裏側、舌の下側まで舐められ、体から力が抜けていく。

 

(こんなに甘くて激しいキス、旦那にしてもらったことない……)

 

 意識までトロトロになって、首が折れそうになり、後頭部を支えてもらった。完全に淳君のなすがままになってしまった。

 空いた方の手が胸に伸びてきて、表面を手の甲でさすられた。揉まれるのと違い、乳首が常に刺激される。ビクリと腰が引け、そのままソファーの上に押し倒された。淳君の口が離れた。

 

「ダメよ、ダメ。ここまでよ……」

 白っぽい意識のまま、どうにか声を絞り出したら、分かりました、と淳君は言った。

「分かりました。ここまでですね。そろそろ帰りましょうか」

 10も年下のクセに生意気だ。

 ちょろい、と思われたのかもしれない。淳君は真菜の頭や頬を撫でながら、起き上がろうとした。

(ホントに生意気! きっと私を試そうとしている!)

 そう思ったけど、勝手に腕が動いて淳君を抱き寄せていた。

 

「ここまで、じゃなかったんですか?」

「いじわる言わないで」

 再び濃厚なキス。何度も唾液を交換した。淳君の腹筋に触れて、撫でて、胸も触った。適度な弾力で盛り上がっていて、乳首を探ったらすぐに見つかった。

 指先で転がすと、

「うっ、それやばい!」 

 淳君は切ない声を真菜の耳元で出した。息が吹きかかった。

「アンっ」

 くすぐったくて、ぞくぞくして、思わず甘い声が漏れる。真菜は淳君の下半身に手を伸ばした。固くなったソレは、まるで凶器のよう。

 ジーンズの上から軽く握り、上下にさすった。

「あっ、ああ、岩本さん…!」

 さらに息を荒くした淳君に乳房をめちゃくちゃに揉まれた。

「んっ、アッ…! 淳君、私のアソコも触って…ハァ…」

 どうかしている。旦那と子どもの顔がチラつくのに、カメラがあるのに、欲望にブレーキが利かない。

 淳君にワレメをコスられているうちに、彼の凶器を受け入れたくて仕方がなくなった。

 

 きっと大丈夫。忙しい店員はいちいちカメラなんてチェックしていない。そんな都合のいいバイアスがかかった真菜は、「淳君が欲しい……」とささやいて彼にしがみついた。